月に勝ち犬
多くのものやお金を削いで、資金を貯めなきゃいけない。
今の生活全般費。
過去の学費。
未来の学費。
なるべく暖房もつけないで、凍えるような寒い冬を越えて、ようやく今日、春のにおいのする風を感じた。
貧乏と言われれば、そう、としか返せないような今の生活だが、それからお金そのものや、お金以上のものにうんと温かさを感じるようになった。
たった一駅の電車賃でさえ高い時は何キロと歩いた。だが、電車では見えない景色やお店を見つけることもできた。
はぁはぁして歩いてきたり、必死にアルバイトをやっていたら、たまにオマケなものを頂いたり、新しいお仕事の話をうまく回してくれたり、何より「ありがとう」と言われることが増えた。
私は生きる上で「誠実さ」を一番大切にしている。
生まれてこのかた、この誠実さはズタボロに砕かれてきた。誠実さがある故に、苦しみが多い時がたくさんあった。それでも私は誠実さを捨てない。
最近になり、やっと誠実さに結果が見えてきた気がする。
クソ高い電車賃やクソ高い野菜などに腹を立てなくなった。そして、クソ高い電車賃の裏にある徒歩の楽しさ、クソ安い食品店を見つけて美味しく料理する喜びや
働くことで得られるお給料は勿論、そこで出会う人々にもらえる笑顔を得られる嬉しさを
身に染みて感じるようになった。
私が私に初めて「誠実」になった時、私は今までの自分の誠実さに感謝した。
ズタボロになっていたあの頃も含めて。
椎名林檎さんの曲に「月に負け犬」という曲がある。
♪この花は絶えず流れ行き ひとつでも
浮かべてはならない 花などがあるだろうか 無いはずだ 僕を認めてよ
♪いつも体を冷やし続けて 無言の季節に立ち竦む 浴びせる罵倒に耳を澄まし 数字ばかりの世に埋まる
大衆に埋もれ、『私』が無くなる悲しみに、勝った気がする。吐く息が熱くなっていく。